俵孝太郎氏は神様なのかしら
2003年5月12日
宇佐美 保
Ａ）日刊ゲンダイのコラム「辻斬り説法」（2003年4月18日 掲載）に於いて俵孝太郎氏は、
「文明遺産を略奪する国民に援助が必要か」の題目で、次のように憤慨されております。
陥落したバグダッドに略奪犯が横行する中で、イラク国立の考古学博物館が襲われ、メソポタミア文明の遺産を中心に収蔵品数万点が盗まれて問題になっている。バグダッドを占領したアメリカ軍が治安維持の責任を果たしていないと非難する声も高い。
ふざけた話である。……母国の敗戦に乗じ、占領者が残敵掃討とゲリラへの対処で治安に手が回らないのを利して、国家公共の財産を盗む奴は、人間として最下等というほかない。
（中略）
逆境は人間の真価をはっきり示す。敗戦後の日本にもドロボーもヤミ屋もいた。軍の物資を盗む奴もいた。
しかし、公共の博物館や美術館の略奪はなかった。占領軍に援助物資をよこせと詰め寄る連中もいなかった。率直にいって国民のレベルの差だ。
どんな事情があろうと、敗戦国民なら臥薪嘗胆、泥水すすり草を噛んで、自力で国家社会を再建しようとするのが当然だ。日本人はそうした。
略奪が横行し、タカリ根性がはびこるようでは、石油という富に恵まれていても、イラクの再建は困難だろう。こんな国民を援助するのは、正直、釈然としない。
この俵氏の見解を、私は、とても奇異に感じます。
1）「国家公共の財産を盗む奴は、人間として最下等」とのご見解ならば、何の理由もなく、文明発祥の地を爆撃破壊し人命さえも奪った行為はどうなのですか！？
メソポタミアは世界の宝です。
それを守るべきは、イラク人だけではない筈です。
フセイン像を倒す前に、占領軍たる米英軍が、文明の遺産の保護に乗り出すべきでした。
最近の日本では、公共の器物を故意に破壊したり、事故で破壊してもだんまりを決め込む輩が沢山居ます。
公共道徳も守られません。（駅のアナウンスにも素知らぬ顔で、禁煙場所で喫煙する輩が大勢居ます。「禁煙運動」に対して一家言お持ちの方は沢山居られましょうが、規則は規則です。）
2）「敗戦後の日本にもドロボーもヤミ屋もいた…… しかし、公共の博物館や美術館の略奪はなかった」
先ず書かなければならないのは、イラクは日本と違って「敗戦国」ではないのです。
イラクは、「フセイン圧政から解放し民主主義を授ける解放軍」との仮面（？）を被った米英軍に押し入られただけなのです。
それから、50数年前のあの時代、日本の敗戦時に「公共の博物館や美術館の略奪」しても、それが金になると思った人が居たでしょうか？
いわんや、骨董筋等の方々が思い至ったとしても、日本国内では売り捌けないのです。国外マーケットで捌かなくてはいけないのです。当時そんなことが可能でしたか？
更に付け加えますと、イラクなどアラブの国々は、彼等の文化遺産を、永年欧米から略奪され続けてきたのではありませんか？
（そして、その流れが今も脈々と続いているのではありませんか？）
3）「石油という富に恵まれていても、イラクの再建は困難だろう」との事ですが、他の産油国は如何なのでしょうか？
石油からの富が、欧米との繋がりのある王族、首長らに集中しているだけではありませんか？
イラクではガソリンが、1リットルにつき1円、2円で売られている事が、テレビで、報じられていました。
日本ではそれが100円です。どうなっているのでしょうか？
Ｂ）更には、最近宅配されてきた「通販生活2003年夏号」を見ますと、俵氏は、北朝鮮への支援に異議を唱えておられます。
日本を敵視する国に、「人道支援」などありえない。
日本国として他国に食糧支援をする場合、当然、その資金は国民の税金で支払われることになります。したがって、支援を受ける側には、人から助けてもらう時の当然のマナー、礼儀作法が求められます。ところが北朝鮮にはそんなものはカケラもない。それどころか北朝鮮は日本に対して敵視政策をとっている侵略的な国です。侵略者を助ける理由はどこにも見つかりません。
「これは人道支援だ」と言う人もいますが、それでは北朝鮮が日本に対して行ってきた拉致や覚醒剤の密輸は人道に反していないのでしょうか。核兵器を開発して日本を恫喝する国に対して人道を腐心する必要があるのでしょうか。世界にはもっと食糧を必要としていて、もっと日本に対して友好的な国はある。なにも北朝鮮を優先的に支援する必要はありません。
……
よしんば補償の請求権があったとしても、その際には日本が北朝鮮に与えた被害と、日本が北朝鮮に残してきた財産を細かく精査する必要があります。
北朝鮮の場合、日本は膨大な財産を残しています。ダム、化学工業地帯、それから現在、まさに対日侵略の本拠地になっている清津（チョンジン）の港、鉄道その他、日本が残してきた財産と北朝鮮側との請求額とを差し引いて、なおかつ向こうの取り分があれば払うというのが補償交渉の常識です。
……
核を作りません、軍隊も持ちません、全く無駄な金は使いません、自分を含め幹部は一切ゼイタクをしません、なおかつ食糧が足りません。どうか支援してくださいというのであれば、……こんな国に食糧支援をするということは、北朝鮮の非人道的な状態を是認するということです。こんな「非人道的」な行為があるでしょうか。
との誠に理路整然とした御意見であって反論する余地もないくらいです。
若し反論出来るとしたら、「補償交渉の常識」の点だけでしょう。
この「常識」について、アインシュタインの明言をいつも私は思い浮かべます。
常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう。
（アインシュタインの150の言葉：厚徳社）
常識なるものの進化無くして、人類の進歩もないのではありませんか？
そして、俵氏は実に立派な方で、「何も間違いも犯さない神のような存在」なのかと思ってしまいます。
私達人間は、残念ながら、誰でも何処の国民でも、先頭に立って旗を振る少数の人に簡単に（騙されて）ついて行ってしまう愚かな習性を持っていると思います。
（拙文「私が60年安保闘争で学んだ事」をご参照下さい）
ですから、圧政に苦しむ又苦しんでいた北朝鮮の方々、イラクの方々が日本国民より愚かと決めつけるのは、神の如き俵氏なら兎も角、私達凡人には許されない行為と思います。
そして、何よりも、理屈は兎も角、北朝鮮の方々，又、イラクの方々の身になって考えたら、外国からの支援がどんなにか有り難いかは直ぐに判るはずです。
神の如き俵氏は「どんな事情があろうと、敗戦国民なら臥薪嘗胆、泥水すすり草を噛んで、自力で国家社会を再建しようとするのが当然だ。日本人はそうした」と書かれていますが、戦後の日本国民が、ララ物資等で救われた事実をお忘れになったのでしょうか？
（神様ならいざ知らず、人間であるなら、恩を忘れては人間としては失格です。）
他国民への支援に対し反対の声を上げる前に、如何にしたら、苦しむ他国民の手へ口へ支援物資を届ける事が出来るのかを先ず考慮すべきと存じます。
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